エピソード12『君はダーツの神を見たか』
俺は、なめられている。
店舗には『ゆっきー』という女の子の後輩スタッフがおります。
この間、閉店後に対戦を挑まれました。
「かなっぷごとき、簡単に倒せるぜ。へのつっぱりにもならんですよ」
あたかも、そう言わんばかりの表情で、挑戦してきたのです。
なんだ、はやい話が下克上ってことね。
「……ざざ、ざぁけんじゃないわよ、あんた!」
ここで負けたら、先輩後輩のパワーバランスが崩れてしまう。
いや、もうそれはすでに崩れてる……。
だったらこの際、どっちが上かをはっきり理解させてやろうじゃんけ。
「おりゃッ!」つって気合い十分、ダーツを握りしめる私。
そんな私に、突如、ダーツの神が舞い降りた。
始めはいつも通りでしたけれども、一投ごとに正確さを増し、いつの間にか狙い通り。
パキューンとかズギュとかピピピーとか鳴らして、まるで上手い人。
全く練習してないのに、お酒を一滴も飲んでないのに、たまにあるこういうこと。
これぞダーツの神の仕業に違いない。
ああ、ダーツの神が常に降臨してくれれば、あっという間にAフラなんだけど。
ダーツの神は、困った時、ここぞという時、ごくたまにしか現れないのだ。
「自分、ちゃんと練習せなアカンで……わし、いそがしいねん……」
そう言い残して、ダーツの神はものの数分で去って行きました。
ありがとう、そしてさようなら、ダーツの神様。
え?
ゆっきー?
ははっ、あんなやつ、ケチョンケチョンのボッコボコにしてやりましたよ。
後日、こんな噂がまことしやかに流れていた。
『あいつ、女子供には容赦しねえ』
卑怯者か、俺は。
To be continued...